ATP加水分解反応と力学反応の同時計測
A. Ishijima et al, Cell, 92, 161-171 (1998)
私たちは、1分子イメージング技術と1分子操作技術を融合し、アクトミオシン相互作用において、ATP加水分解反応と力学反応の同時計測に成功しました。
この実験系において、アクチンフィラメントは二つのトラップされたビーズによって両端を補足されています。このアクチンフィラメントをガラス表面上に固定したミオシン分子と相互作用させ、それによって生じた変位をトラップしたビーズの変位から求めます。ATP加水分解反応は蛍光性のATPアナログとエバネッセント照明を用いて測定します(参考)。
その結果、アクトミオシンの解離と蛍光強度の上昇、変位発生と蛍光強度の減少が一致していることがわかりました(下図)。
変位、蛍光強度変化の時間とレース。上段が変位、中段が弾性率、下段が蛍光強度の時間変化。
図から、アクチンが原点に戻るのに対応してATPが結合し、変位の立ち上がりに対応してADPが解離していることがわかります。言い換えると、ミオシンはATPと結合していない状態でアクチンフィラメントと結合しています。ATPが結合するとミオシンはアクチンから離れ、ミオシン頭部でATPはADPとリン酸に加水分解されます。加水分解が終わるとミオシンはふたたびアクチンフィラメントと結合し、変位を発生し、これと同時に、ADPとリン酸がミオシンから解離します。このようにして1分子計測を使って、化学反応と力学反応の対応関係を直接見ることが初めて可能になりました。