モーターグループ

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生体分子モーターの機能メカニズムを探る

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1分子イメージング

1分子計測の基盤技術―1分子を観る

DSC_0046.JPG1分子計測は、光学顕微鏡下で生きた状態のまま個々の生体分子を“観て”、“操作する”技術で、従来の多分子計測のような多分子にわたる平均化をしないで、分子の動的な変化を実時間で計測することができる測定方法です。
生体分子モーター1分子の機能を明らかにするためには、まず生体分子1個を可視化する技術が基本的な技術として必要です。さらにタンパク質の活性を保ったまま、生体1分子を可視化するためには、水溶液中でその動きを観察しなければなりません。生体分子は、蛍光色素をプローブとして標識化すれば、可視化できますが、1分子を観察する場合、それだけでは1分子が発する信号は背景光に埋もれてしまいます。エバネッセント照明はガラスと水溶液の表面近くだけを励起するテクニックであり、これを使って1分子イメージングが可能となり、この技術によって生体分子モーター1分子がレールタンパク質の上を1方向に運動する様子を観察できます。

1分子の化学反応を見る

ATPイメージング.pngエバネッセント蛍光顕微鏡を使えば、生体分子モーターがATPを分解する過程(加水分解サイクル)も直接観察することができます。ATPはそのままでは蛍光を発しないので、蛍光色素をATPの働きの邪魔にならないように化学的に付けます。さらにガラス表面上の生体分子モーターにも別の蛍光色素を標識し、その位置を検出できるようにしておき、同じ位置でATPについた色素の蛍光を観察します。ATPは溶液中で非常に速いブラウン運動を行うため、ガラス表面上の生体分子モーターに結合しているときだけ輝点として観察できます。このように、分子のブラウン運動とエバネッセント光による局所励起を組み合わせることで、分子間の相互作用を1分子レベルで観察することができます。
T. Funatsu et al, Nature, 374, 555-559 (1995)
A. Ishijima et al, Cell, 92, 161-171 (1998)

FRET

アクチンFRET.png生体分子内の構造変化を検出するには、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動法)が有効です。この手法は、1つの分子に2つの蛍光色素をつけ、その距離に応じてそれぞれの明るさが変化することを利用するものです。この手法を用いれば、タンパク質やDNA、RNAの特定の2点間の距離を計測することができ、ナノメートルオーダの物差しとして使えます。こうして、タンパク質の内部構造のゆらぎを計測し、ブラウン運動で誘起される生体分子素子の柔軟なメカニズムに迫ります。
J. Kozuka et al, Nat. Chem. Biol, 2, 83-86 (2006)

1分子操作

1分子を操る

micro.png1分子を操るとは、生体分子1分子を捕まえ、その位置などをコントロールすることです。1分子イメージングでは、生体分子モーターを蛍光色素で標識しますが、1分子操作では、ビーズやガラスニードルなどマイクロメートルオーダの大きな目印をつけて、その動きを追跡します。1分子イメージング技術との大きな違いは、1分子操作は生体分子に外力を加えることができるので、生体分子がもつ力学特性を測定できる点です。
生体分子を操作する方法については、大きく分けて2通りあります。一つはガラスニードルを用いる方法、もう一つは、光ピンセットを用いる方法です。これらは共に極めて小さい力を測定できるバネばかりとして用いることが可能で、nmの変位、pNの力を、msの時間分解能で計測でき、熱エネルギー程度の入力エネルギーで効率よく運動する分子機械の測定に適しています。

光ピンセット技術

laser-trap.gif当研究室では、生体分子モーターの運動解析のために光ピンセット技術を用いています。光ピンセットとは、集光したレーザーによって水中の微粒子を非接触かつ非破壊に補足する技術です。
実際には、モーター分子をビーズに結合させ、そのビーズを光ピンセットで補足し操作します。このビーズに結合したモーター分子をレールタンパク質に相互作用させると、モーター分子はレールタンパク質に沿って滑走運動をはじめます。このとき、ビーズの位置を記録すれば、レールタンパク質上の分子モーターの動きを観察できます。
また、前述のように、この測定方法は、生体分子モーターの挙動を観察するだけではなく、モーター分子がもつ力学特性を調べることもできます。分子モーターの運動によってトラップの中心から外れたビーズは、バネのように中心からの距離に比例して中心へ戻そうとする力をレーザーから受けます。このとき負荷の大きさは、レーザーの力のバネ定数とビーズのトラップ中心からの距離を測定すれば求めることができます。
M. Iwaki et al, Nat. Chem. Biol., 5(6), 403-405 (2009)

走査プローブによる力学運動の観察

ガラスニードル.png光ピンセットを使ったナノ計測装置の欠点は、生体分子モーターの挙動をビーズを介して間接的に観察していることです。ビーズが溶液中で受ける粘性やビーズと分子モーターの結合が持つ弾性は測定装置の分解能を低下させます。走査プローブで生体分子モーターを捕まえ、その動きを直接測るという手法は、そのような問題を回避するために開発されました。
先端が非常に細いガラスニードルは小さなバネばかりとして用いることができます。ガラスニードルの先端に生体分子モーターをつけてレールタンパク質と相互作用させれば、生体分子の力発生とともに針はたわみ、元に戻そうと復元力が働きます。光ピンセット技術と同様に、バネ定数(ここではガラスニードルの弾性力)とガラス先端の中心からのずれが分かれば、生体分子モーターが発生する力を見積もることができます。
K. Kitamura et al, Nature, 397, 129-134 (1999)